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2日目 − 1989.12.25 −



 ・・・・・・ん? ・・・・・・あめ? ・・・・・・あかるい・・・・・・あ、シャワー・・・・・・どこ・・・ン? ・・・空っぽ・・・・・・あ、ホテル・・・。なんだ、バリがシャワー使ってんのか。フゥ。何時だ? とけい、トケイ・・・・・・なあい・・・・・・どこ置いたっけ・・・・・・うーん・・・・・・もっかい寝よ・・・。

 ・・・・・・

「・・・もりさん・・・小森さん。そろそろ九時っすよ」

 うん、おきてる・・・起きてるよ。

「・・・うん」


「いやぁ、気持ちいいっすよ、シャワー。やっぱ、朝は熱いシャワーっすよね。初め出し方ぜんぜんわかんなかったんですけどね。あと、ちょっと温度調節むずかしっすよ。内側捻って、クキッとやんすよ、クキッと・・・」

「・・・バリィ、元気いいな」

「そりゃもう、一時間くらい前から起きちゃってますからね。ほら、小森さん、シャワーでも浴びてきてくださいよ。相変わらず、朝弱いんすねぇ。ちゃんと会社行けてます?」

「・・・うぅ、・・・浴びてくる」

 ったく・・・信じれん・・・なんで朝から・・・あんな元気いいの・・・ああ、ニューヨークでも朝ってつらいのね・・・どこ行ってもおんなじか・・・何だって、こんなに朝・・・弱いんだろ・・・会社? 行ってますよ・・・ちゃんと、行ってます・・・なんとかなるもん・・・ちと、遅刻は多いかもしんない・・・ええっと・・・やっぱ、でかいな・・・バスタブ・・・カーテン・・・引くのね・・・ん?

「バリィ、これどうやって・・・」

 わっぷ、アチッ! いきなり出た。な、なんだ、どうすんだ、これ。あー、とめ、こ、これか? あ、あついって。あ・・・。

「どうかしましたぁ?」
「あ、ああ、いい。わかった、わかったぁ」

 ふぅ。はあ、まともになった。うー、生き返る。やっぱ、シャワーやねえ・・・、いいよなぁ、朝からシャワー浴びる生活って。普段もうちょっと早く起きれば、出来るんだけど。起きらんねえんだよなぁ。余裕持って目覚まし掛けたって、その分また寝ちゃうんだもん。そっちの方がよっぽどやばいし。あれで何度寝過ごしたことか・・・。

 はあ、とにかくシャワー、ん? ちと、ぬるくなってきたんじゃ・・・あ、ツメテッ、冷たいよ。え、これだろ? おかしいな。なんもさわってないのに。こっちか。もうちょい。ん。アツッ。今度は熱いって。なんじゃ、このシャワー・・・あ、まともになった。今のうち。あっ、そうだ・・・、

「バリィ、シャンプーどうしたあ?」

 あれ? 返事がねえな。聞こえなかったかな。ちと、蛇口避けてっと、カーテン開けて、あっ、あんじゃん、洗面台の上に。

「なんか、言いましたぁ?」

 なんだよ。聞こえてたのかよ、あいつ。

「ああ、もういいぃ。なんでもないぃ」

 シャンプー備え付けか。そうだよな、ホテルだもんな。わざわざ小さい容器に入れちゃって。女とか、こういうの持ってっちゃうんだよ。可愛いとかいっちゃってさ。なんでも可愛いだもんな、あいつら。あ、これリンプーだ。へえ、アメリカでもリンプーってあるんだ。なるほど、こりゃ、いい。帰り持って行こうっと。ふぅ・・・タオルは? あ、あれか。ああ、いやいや・・・。しまった。代えのトランクス、部屋の中だ。ま、いいか、バリだから。このタオル巻いて、お、これはバスローブではないか。いいなあ、これにしよっと。鏡。曇ってんな。これで拭いてっと。うん、なかなか。青年実業家って感じやね。かあ、いやらしい。なんでバスローブってこんなにいやらしいんだろ。

「あー、いいお湯だったあ。ビールねえかな、ビール」
「なに言ってんすか、朝っぱらから」
「あの・・・トマト・ジュースでもいいんすけど」
「ないっス。それより、さっき坂井たちから連絡入ったんすよ。あいつら、もうすっかり起きちゃってて、下で飯食ってますからって」
「へえ、下に飯食えるようなことあったっけ? ふーん・・・じゃ、オレたちも合流すっか」

 こんなとこレストランになってたのか。はあ、こぢんまりしてっけど一応まともなホテルなんだな、ここ。あれ、意外とテーブル数あるな。造りが縦長だから、あんまりそんな感じしなかったけど。客、少ないな。時間のせいか? お、坂井たちだ。

「おぅ、おはよ」
「寝れました?」
「そりゃもうぐっすり。何食ってんだ?」
「モーニング・セットみたいなもんだと思いますけど」
「ふーん・・・あ、ども。メニューね・・・、はあ、これか。このブレックファストなんとかって」
「ね、けっこう高いっしょ?」
「やっぱホテルだな。ま、これでいいか。・・・あ、ディスプリーズ。え? ああ、じゃ、スクランブルエッグ、アン・・・ジュース。オーレンジュプリィ。バリは?」
「あ、つぅ、ツゥ。ミィツゥ」
「いやぁ、まだ寝てんじゃないかと思ってたんですけど」
「え? バカ、起きてたよ。ま、バリのおかげかね」
「小森さん、相変わらず朝弱いんしょ」
「そんなことないよ、なぁバリ」
「え、ええ・・・」
「合宿の時とか、小森さんお越しに行くのって、けっこう気合い要りましたもんね」
「そうなの?」
「そうっスよ。誰が行くかじゃんけんしたこともあんですから」
「うそ」
「だって、確か寝起き悪くて、民宿のガラス割ったんじゃなかったでしたっけ?」
「ありゃ、オレじゃねえよ。金井だよ」
「あれ? その話、金井さんから聞きましたよ、小森の仕業だって」
「ひでえなぁ、アイツ。オレのことにしちまいやがんの。・・・あ、ども。やっと来た。うーん。これがニューヨークの朝食かぁ。ていっても、たいして珍しいもんでもないけど。ただのパン食だな、こりゃ。
「でも、小森さん、さっきも寝起きの目は恐かったスよ」
「そう?」
「で、話変わりますけどねえ。これからの予定なんですけど。なんか特別みたいとことかって有ります?」
「いんやぁ、オレは別に、なんも考えてないけど。元々どこになにがあるかよく知んないもんね」
「バリちゃんは?」
「ああ、オレも、そんなには。ライブ・ハウスは行ってみたいけど」
「あ、ライブハウスはねえ、それ用の新聞もう買ってあるから、これから予約入れてみる。だいたい当日で大丈夫なんだって。けっこうすごいの出てるよぅ。さすがニューヨークって感じ」
「それじゃ、今日は昼間、自由の女神の方に行ってみようかって言ってたんですけど。いいっすか」
「あぁ、いいよ。へえ、どこ行くのかと思ったら、けっこうまともじゃん」
「いやぁ。オレらもまだ、まともな観光コースは全然行ってないんすよ。ま、その辺は四人で行けばいいかなと思って」
「そんで、できたらハーレムの方行ってみません?」
「ハーレム?」
「えっ、坂井、そりゃ、ちょっとまずいんじゃない?」

 あら、バリにしてはめずらしく弱気な発言。でも、確かにハーレムはやばいっていうのは、わかんないでもないな。ニューヨークでもハーレムとブルックリンだけは違うって聞いたことあるもん。わざわざ危ないとこに行くことないよな。坂井はけっこう行きたがってんな。バリともめてら。あれ? でも自由の女神とハーレムって・・・、

「なぁ、それもしかして、全然別方向じゃなかった?」
「あ、そうなんですけどね。いや、地下鉄だと一本で行くんですけど」
「じゃ、それは時間が余ったらにしようぜ」
「はあ・・・」
「あ、そういえば、藤田さんに連絡つきました?」
「あ、忘れてた」
「頼みますよう。それって、今回の旅行の一応メインなんですから」
「うん、後でかけてみよっか・・・」
「ヘヘッ、後もう一個メインがあるんですよ。こっちの方がちょっと楽しみ」
「なに?」
「坂井のツテなんですけどね」
「いや、オレの友達の知り合いで、こっちに住んでる女の子がいるらしいんですよ。それで、できたらその子にも会いたいなと思って」
「女の子? へえ、おまえ会ったことあんの?」
「いえ、全然」
「友達の知り合いって、それ、赤の他人のことじゃねえか?」
「ま、そうともいういうことですけどね」
「はあ・・・。ま、いっか。ここで日本人同志だったら、まだ話すこともあるよな」
「え? あの、その子アメリカ人ですよ」
「は? ・・・あの、坂井って、英語大丈夫?」
「ハハ、なんとかなるっしょ」

 こ、こいつ・・・、オレより楽天家かもしれん。

「それにしても・・・」
「うん? どうしたの、バリ」
「いや、なんか気になってたんスけど、煙草吸ってんの、このテーブルだけじゃありません?」
「そういわけてみれば・・・」
「確かに・・・」
「ホントだ。煙上がってんの、ここだけだ。オレたち全員吸うもんな」
「ね。なんかさっきから、店の人の視線感じるんスよ。ほら、ニューヨークって、けっこう煙草うるさいんじゃなかったでしたっけ?」
「うん。聞いたことある・・・感じたのは初めてだけど」
「とりあえず、引き上げますか。じゃ、三十分後にロビーでいいっすか?」

 ・・・

 そうだ。藤田さんに連絡しなくちゃいけないんだった。ああ、気が重い。何だってこんな役割オレに回ってきちまったんだろ。金井に教えてもらったのは・・・これか。そうだ。ふたつあるんだ。自宅には、ほとんど繋がらないから、会社にかけた方がいいっていわれたんだよな。やっぱ新聞記者って忙しいんだろうね。ニューヨーク特派員なんて、なにやってっか想像もつかないもんな。なにやってんだろ。英語しゃべってんだろうねぇ。昨日のスーパーのお釣りで小銭もけっこう有るし、公衆電話試してみっか。ロビーにあったよな。

 ・・・どうすりゃいいんだろ、これ。ええい、電話の掛け方なんて、たいして変わんねえだろ。小銭はでっかいのとか、ちぃちゃいのとかいろいろあるけど。この穴かな? うん、これだと大きさ合いそうだ。ここ入れてっと。これでいいんだろうか? あ、繋がった音だよな、これ。えーと・・・あ? 会社の方っていうと、外人がでるのではなかろうか。

" Hello ? "

 あちゃ、外人だ。まいったな。しょうがねえ。落ち着け、落ち着け。

「ハ、ハロぉ」
「あー、もしもし・・・」

 なんだあ、日本語大丈夫なんじゃん。あれ、なんでこっちが日本人だってわかったんだ? もしかして、ハローの一言だけで日本人だってばれちゃったわけ?

「あー、お仕事中すいません。私、小森といいますが。あの、そちらに藤田さんという方がいらっしゃると思うんですが」
「藤田ですか? 申し訳ございません。藤田は昨日からデトロイトの方に出向いておりますが」
「は? デトロイト、ですか? あ、あのお戻りは?」
「そうですねぇ、二、三日先になるかと存知ますが。なにか、ご伝言ございますか?」
「はあ・・・あ、それじゃ、すいません、あの、こっちに着いてルーズベルト・ホテルに滞在していると、そう伝えてもらえますか。あ、小森です」
「はい、小森さまですね。かしこまりました・・・」

 はあ。思わぬ社会人の電話だった。疲れるぅ。しかし、デトロイトだってえ。仕事だよな。そんなとこまで行くんかいな、さすが新聞記者。でもな、二、三日先って会えるのかなあ? 微妙だろ。あれ? そういえば電話出た女の人、藤田さんの名前出しただけですぐにわかったな。事務所ちっちゃいんだろうか。はて・・・?

 ・・・

「ああ、みんな揃ってたの」
「ライブハウスの予約取れましたよ。レスポール・トリオってわかります?」
「レスポールって、あのジミー・ペイジが弾いてたギター?」
「そう、そのギター作った人ですよ。その人の名前なんですけどね、レスポールって」
「え? ボケたつもりだったのに・・・。あれ、ヒトの名前なの?」
「そうなんすよ。そのヒトがまだ唄ってるらしいんすよ。けっこういい歳だと思うんすけどね」
「へえ・・・。うわぁ、さみいー。なんだ、この寒さは。ニューヨークって、いつもこうか?」
「いや、今日はまた一段と寒いっス」
「これ、寒いなんてもんじゃないぜ。痛いだよ、イタイ」
「は、早く地下鉄行きましょ」

 やっぱりニューヨークの寒さって本物だ。おお、それでもドアマンはぴしっと立ってる。さすがだプロだ。なんだか空も暗いな。でも、この辺の古いビルって、この空の方が合ってるような気もするけど・・・あれ、なんでこんなにヒトがいるんだ?

「坂井、あそこなに?」
「あれですよ、地下鉄。あれが、グランド・セントラル・ステーションです」

 へえ、こんな側にあったんだ。しかもでけえじゃねえか、この駅。ホントに地下鉄の駅かよ。上野がおしゃれになったみてえだ。おお、みんな外人だ。ん? グランド・セントラルってどっかで聞いたことあるな。なんだったっけ? ・・・そうだ、なんかの小説だ。この駅の地下室で、爆弾作ってるとかいう話だ。うん、確かに爆弾作っててもおかしくねえぞ、これじゃ。

「ここで、トークン買わなきゃいけないんですよ」
「トークン? おお、とーくん!」
「まとめて買っといた方がいいっスよ。オレたちまだ残ってますけど」
「いくら?」
「1ドルです、確か」
「やっすいな、そりゃ。じゃ、とりあえず五、六枚買っとくか」

 これがトークンか。五円玉の親方みてえだな。あ、これ真ん中穴開いてんじゃねえのか。銀が埋め込んであるわ。

「でも、ニューヨークってやっぱいいですよ。これ一枚で地下鉄乗り放題なんすから。あ、これ改札です」

 はあ、ただ棒が突き出してるだけじゃんね。こんなの簡単に飛び越えられるぜ。ここにトークン入れるのね。お、おお、棒が回る。どこぞの遊園地の入り口みたいだ。あ、路線図か。こりゃいいや。もらっとこ。

「坂井、自由の女神があるのって、どこ?」
「あ、バッテリーパークって公園ですよ。えーと・・・、ほら、この一番先」

 はあ、天辺だね。てことは、これずっと一本だ。この4、5、6っていうの地下鉄の番号か? 反対側に1、2、3の路線があって、他にはアルファベットがついてるのか。ほとんど東と西を結んでるだけだな。都内の地下鉄より、よっぽどわかり易いや。ホーム、ここでいいんだろか。あ、あそこに番号書いてあんのか。いいね、なに線とかじゃないから、簡単でいいや。けっこうヒトがいるな。やっぱ、この駅でかいからだろか。

 お、来た。ボロそうな車両。シルバーだと思ってたら違うんだな。くすんだオレンジ色だ。中央線の払い下げじゃねえか? しかし、電車が来ますともなんとも言わないのね。

 うーん。やっぱ乗客は雑多だわ。白に、茶色に、黒に、いろんな人間がいるな。なんかこの辺、黄色はオレたちだけかな。四人の集団で乗ってんのもオレたちだけみたいだけど。でもよく考えたら、黄色って肌の色はないよな。白とか黒はわかるけど、なんだってイエローだと思ったんだろ。せめて薄茶色とかさぁ。ホントに黄色い顔してるヤツがいたら見てみたいもんだ。気持ち悪い顔色だろうな。まだ、青い顔の方が理解できる。

 さっきから、あのおばちゃんずっとこっち見てんな。あの色は、純粋な黒人じゃないだろ。プエルトリカンかな。いや、うちの田舎のばあちゃんと似たようなもんだけど。なんだか怒ってんだか、怒ってないんだかわかんないような顔付きしてるところがさらに似てるわ。田舎の電車乗ってても似たような眼で見られてるときあるもんな。

 ああ、やっと座われたか。なんかだんだん乗客が少なくなってきたような気がするけど。ま、それもそうだよな。わざわざ自由の女神見に出かけていくヒトなんて、そうそう地下鉄に乗ってるもんじゃないだろ。浅草線に何人東京タワー見に行くひとが乗ってるかってもんだ。だいたい観光か暇つぶしのデートでもない限り、行くとこじゃないんだよな、そんなとこは。

「着きました。ここですね、バッテリーパーク」
「しっかし、なんだねえ。バッテリーパークなんて、電池のゴミ捨て場みたいな名前だねぇ」

 さすがにこの駅はたいしたもんじゃないな。グランドセントラルに比べると、そうだな、大手町と門前仲町って感じか。まわりの壁もきたならしい。なんだか嫌な匂いもするし・・・。

 うわあ、表に出るとまた強烈に寒いなあ。やっぱ地下は暖かかったんだ。明るいんだけど、青空はどこにもないし。見上げる限り、くすんだ白。

「曇りきってんなぁ。こりゃ、絶好の観光日和だこと」
「公園どっちだろ?」
「ああ、あれだろ。ほら、あそこに矢印でてる」
「行ってみよ」

 あら、ちょいと歩いただけで、急に見晴らしがよくなったな。

「はあ、でっかい公園だな、こりゃ」
「こんなに大きと思わなかったな。でも、おしゃれっすね。ほら、白樺の木なんかあって」
「自由の女神なんて全然見えないじゃん」
「もっと先なんじゃないんすか。だいたい船に乗って四、五十分かかるらしいっすから」
「えー、そんなに離れてんの? そんじゃ見えないのかな」
「さぁ、どうでしょ。でも見えんじゃないですかね。なんせでかいんですから、自由の女神も」
「なんでもかんでもでかいね、こっちは。ああ、それにしても寒い」
「ホント、しゃれになんない寒さっスね」
「なんか、あんまりヒトもいないし。自由の女神って人気ないんだろうか?」
「さあ、そんなことはないでしょうけど。ちょっと寒過ぎるかな」

「こんなに寒いのに、誰も好き好んでこんなとこ来ないよ。うん、わかる、十分わかる」
「なんだろ、あの銅像。コロンブスかな」
「ええ、違うだろ。もう、アメリカだと何でもコロンブスにしちゃうんだから」
「それにしても、この銅像もでかいよね」
「よーし、それじゃ、この銅像バックにして写真取ろう」
「いいんだけどさあ。寒いんだから早く取ってね」

「あー、海だ」
「おー、あの先かあ。あ、走んな、走んなよ、おい、こら・・・」


 ったく、ガキなんだから。言ってる間にオレまで早足になっちまったじゃねえか。逃げやしないって。はあ、こりゃすごいや。横一面に海が広がってる。いきなり代々木公園の中に、港の見える丘公園が現れたみたいだ。ええい、そんなケチなもんじゃないな。ずっと先まで海が続いてるじゃないか。こりゃ絶景だあ。お、望遠鏡じゃねえか。百円入れるヤツ。どこにでもあるんだな、こいいうの。まさか百円入れるんじゃないだろうけど。ああ、あれかあ、自由の女神。すごいちっちゃこく見えるけど。手ぇ上げてるよな。うう、なんだかよくわからん。これじゃ、そうとう離れてるんだ。

「いやあ、ヒト少ないわけわかりましたよ。今日は自由の女神まで行けないんですよ」
「え? どういうこと?」
「船が運行中止らしいんすよ。冬場は海が凍結することがあって、船が出せないこともあるって聞いてたんですけど、ホントだったみたいっす」
「はぁ・・・そりゃ、寒いわけだ」
「さっき温度計みたら、マイナス12度ですって」
「な!」

 まいったなあ。自由の女神なんて、たいして見たいとも思わなかったはずなのに、眼の前まで行ってダメっていわれちゃ、妙に損した気分になるから不思議だ。



「しょうがないですねえ。それじゃ、貿易センタービルでも行ってみますか」
「え? 貿易センター?」
「ええ。世界貿易センタービル。知りません?」
「それって、ワールドトレードセンタービルのこと?」
「あ、そうです。そのまんまじゃないっすか。知ってますねえ」
「うん・・・、知ってるどころか、行ったことまである・・・」

 ・・・

 はあ、二日連ちゃんで同じとこまで来ちゃったよ。それじゃ、昨日の晩はこの辺りをさ迷ってたわけか。なんだか夜と昼間じゃ全然雰囲気違うじゃない。昨日はとんでもない街の外れなんだろうと思ったんだけど。

「この辺でしょ。ウォール街って。あの株取引するとこ」
「兜町みたいなもん?」
「そうそう」
「それじゃ、オフィス街なんだ。それで夜は静かだったのかな」
「そうですね。夜中に丸の内歩き回ってたようなもんですね」
「あんまり、クリスマスは関係なかったな」
「さあ、どうでしょ。クリスマス休みっていうのは、やっぱり多いみたいっスよ。あ、これですね。うわぁ、でかいや」
「うん・・・でも、昨日の夜の方が威圧感あったよな気がする」
「昇ってみましょ。展望台あるはずですから」

 ・・・

「はあ。エレベーターの前に列が出来てんじゃん」
「観光客ですね」
「こんなにいるのかよ」
「やっぱ、こっちはビルの中で暖かいですからねえ」
「それにしてもほとんど外人ばっかり」
「ああ、そういわれれば・・・やっぱ、ニューヨークだからかな。他の国の観光客多いんだろうね」
「なんか、ここに並んでると新宿の高層ビル思い出しますけどね」
「いえてんなあ。高いビルはどこ行っても同じかね。あ、来たじゃん」
「ううっ。牛詰めですね・・・」

 おもしろいもんだ。エレベーターが動き出したら、皆黙っちゃうのは万国共通かね。ほとんど上見上げるのも一緒だね。いや、向こうの方で何人かぐちゃぐちゃしゃべってっけど。あれは何語なんだ、いったい。どれぐらいだろ。二、三十人乗ってるかな。この中に全部で何カ国の人間が乗ってるのかね。ひとりひとり聞いてみたいな。すごいよなあ。この人たち全然違う国の人間なんだろ。二度と会わないどころじゃないよな。あ、着いたのか。


「ありゃー、やっぱ曇ってんなあ。真っ白じゃん」
「うん、足元はけっこう見えるけど。これ、天気よかったら見晴らしいいんだろうな」
「しょうがないっすね。とりあえず、写真とりましょか」
「ああ、ここにも望遠鏡あるよ」
「いくらですかね」
「クォーターみたい」
「覗いてみようかな」
「やめとけよ。望遠鏡で見ても雲は雲だろ」
「そりゃ、そうですけど」
「ああ、やっぱ晴れた日に来たかったねえ」
「また来てもいいでしょ。晴れた日があればですけど・・・」


 ・・・

「さ、ハーレム行ってみますか」
「あ、そうか・・・。うん、行ってみっか」
「どっか地下鉄捜さなきゃじゃん」
「この先にあると思うんだけどねえ。えっと、これがこの通りだから・・・」
「なんか地図もってうろついてるのも、みっともない姿だねえ」
「また、そんなこと言ってっから、昨日みたいなことになったんでしょうに」
「そ、それもそうなんですけどね」
「小森さん、どこ行くって目的もった旅苦手でしょ」
「あ、そうなのよ。わかってくれる、中道。ほら、知らないところぶらぶら歩いててさ、これなんだろって、ああいうの好きなんだよね。何に出くわすかわかんないじゃん」
「いや、それはオレもいいとは思いますけどね」
「だってほら、昨日だっておもしろかったろ」
「そうっスかあ?」
「ありゃ、だめよ、ああいうハプニング楽しめないと」
「うーん、ついてく方はたいへんかもしれない」
「それって、けっこう贅沢な楽しみかもしれないっスねえ。ほら、時間ないと、そんなことやってらんないでしょ」
「そうかもしんないねえ」
「その先曲がって・・・、あ、あったあれでしょ」
「さすが坂井だ。黙々と地図見てやがったな、おまえ。うん、やっぱ迷わないもんだねえ」
「そんなもんですってば」
「なんかつまんねえや」
「これなんて駅だろ」
「とにかく降りてみようか」
「この駅、さっきの駅よりさらに暗い感じがすんなあ」
「なんか、しょんべん臭いっすね」
「なんなんだろうね、この匂いは」
「ここでいいのか?」
「いいみたいっすよ。1、2、3番の上りに乗れば」
「下り乗ったらどうなっちゃうの?」
「ブルックリン行くみたい」
「げっ、それはやばいんでないか」
「なに言ってんスか。これからハーレム行こうってヒトが。どっちも一緒っしょ?」
「なんかオレ、嫌な予感がしてきた」
「今更遅い。大丈夫ですよ、こっち上りだから。あ、ほら来ましたよ」
「今度はこげ茶色」
「いやあ、いろんな電車ありますねえ」
「こっちホントに上り?」
「でしょ。たぶん・・・」
「たぶん?」
「まあ、違ってたら、その時」
「おっかねえこと言うなよ、おまえ」
「乗っちゃってんだから、もう手遅れ」
「なあ、これ一本でいいのか?」
「いや、途中で乗換えないといけないみたいなんスよ。ほら、これだと上行っちゃうでしょ」
「ホントだ。てことは、ここからこっち乗ってこっちか。ここは…タイムズ、エスキュー? あ、タイムズ・スクェアか。そんでまたグランド・セントラルから乗り換えるわけ?」
「そうっスね」
「はあ、だいたい作りがわかってきたな。え、これセントラル・パークか? こっちがバッテリーパークだろ。十倍くらいあんじゃん。はあ、こりゃ四、五人殺されてもおかしくねえや」
「え、セントラル・パークって危ないんスか?」
「そうらしいよ。ジョギング中にレイプされるのなんて挨拶だっていうじゃん」
「挨拶変わりにレイプ出来たらすごいなあ」
「あ、そういうこと言ってっっから、おまえは女の敵だっていわれんだよ」
「だあれが言ったんすか、そんなこと」
「今、オレがそう思った」
「あのね・・・」
「あ、ここですね。乗換えますよ」

 ・・・

「なあ…気がついた?」
「なんスか?」
「いやな。周りの乗客な。あ、あんまりじろじろ見んなよ。あのな、だんだん白人が少なくなってるみたいなんだよ」
「そうっすかあ?」
「ああ。見ててみな。駅着くたんびに白っぽいのが降りてって、変わりに黒いのが乗ってくんだ。それもな、だんだん色が濃くなってくような気がすんだ」
「気のせいじゃないっすか。ほら、あのヒト、白人でしょ。あら、降りちゃった。ええと、後は・・・、ありゃ、ホントだ。あと二人だ」
「うん、オレもなんとなく気になってたんすよ」
「そのうち黒人だらけになんじゃないの」
「なんか、オレたち浮いてるような」
「日本人いないなんてもんじゃないな」
「あ、ありゃあの二人降りちゃった」
「ほうら」
「ほうらじゃないっスよ。ホントに黒人ばっかじゃないっスか」
「急に声ひそめたね、おまえ。うん、気持ちはわかるよ。黒人って威圧感すごいのな」
「なんか、みんな犯罪者にみえちゃいますね」
「おまえ、そりゃ偏見だろ」
「でも・・・、なんか視線感じません?」
「感じる。えらい感じる」
「オレたち、すごいとこに行こうとしてんじゃないっスか・・・」

 ・・・

「こ、ここっすね・・・」
「こ、ここか・・・し、静かだよね・・・」
「は、はは、なんもないじゃない・・・」
「ア、アポロシアターがあるんだよ。あの先だけど・・・」
「ブ、ブラックの殿堂やね。と、とりあえずあそこまで行ってみよか」
「な、なんでこんなに静かなんだろ」
「い、いま昼だからじゃない」
「よ、よるは、賑やかなのかな」
「う、うん、たぶん・・・」
「な、なまじ静かだと、よけい・・・」
「き、きもち悪いよねえ」
「が、がいこくだよなあ・・・。あ、こ、ここですね」
「ス、スティービー・ワンダーってここでデビューしたんだよね」
「ル、ルイ・アームストロングもじゃなかったっけ?」
「な、なんでもいいから、早く帰ろよ・・・」

”Merry Chirisutmas!
 Merry Chirisutmas!
 Merry Chirisutmas!
 ・・・・・・ ”

 な、なんだありゃ? ラジカセ抱えた黒人のおじさんが・・・、らりってんのか? なんか危ないなあ、これだけ離れてれば大丈夫だろうけど。ありゃまあ、にこにこしちゃってるよ。あんなおじさんでも、やっぱクリスマスは楽しいんだろうか・・・。

「あー、恐かったあ」
「確かに・・・」
「せっかくだから、セントラル・パーク寄ってみようか」
「えー、大丈夫っすかね?」
「あれ以上恐いとこ、もうないだろ」
「しっかし、恐かったよなあ。なんなんだろ、あれ?」
「さあ、こっちの警戒しすぎかなあ」
「いや、でもなんか不穏な空気だったよ」
「うん、オレも感じた」
「みんな感じてたでしょ。あれが街の空気なんですかねえ」
「ああ、オレ疲れちゃった。先帰りますわ」
「なんだ中道、帰るの?」
「そんじゃ、カメラ坂井に預けとくから、適当に取っていいよ」
「ああ。それじゃ、ここで・・・」
「まあ、疲れるよなあ。わからんでもない」
「いや、なんかあいつ買い物もあるみたいっスよ」
「それじゃ、行ってみようか。どっちかな・・・」

 なんて、捜す必要もないのね。地上出たら、もうそこに森があるんだもん。ホント、公園なんてもんじゃないな、迷子になるぜ、これじゃあ。はあ、すごい。都会のど真ん中にこんなものつくっちゃうんだもん。スケール違うよ、こっちは。

「いいなあ。ジョギングしたくなっちまうよなあ」
「あいやあ、寒いっスよ」
「うん、まあ、確かに」
「広いっすよねえ。これどの辺なんだろ?」
「さあ。あ、あっちに見えてんのエンパイヤステートビル?」
「たぶんそうですね」

「すごい眺めだよなあ」
「あ、あの辺の木陰のベンチいいっすね。ちょっと撮影会しましょっか」
「はあ。なんかチョコレートの宣伝みたいな場所だねえ。ほら、『公園の小枝もたいせつにね』」
「ホントにリスとか出てきそうですよね」
「いるんじゃない? シカがでてきても不思議じゃないぜ、これじゃ」
「でも、こんなとこでレイプされちゃうんでしょ」
「うん、やっぱ夜は危ないんだろうねえ」
「もったいないっスよね、こんなにいい公園なのに」
「ホントだよな。これが代々木公園だったら、カップルに見せつけられるだけなのに」
「代々木公園じゃ、ジョギングしようって気にならないっしょ。あ、シャッター代わるよ」
「いやあ、なかなかいい構図っスよ」
「あの木立なんてどうかね。うん、そっち。そっちよって。うん、いいねえ。さ、ちょっと肩出してみようか」
「なに考えてんすか」
「なんかカメラ持つと、こういう口調になっちゃうよな」
「わかるわかる、カメラマンがいやらしくなるわけだ」


「そうだ、確かこの近くにダコタ・ハウスがあるんだ」
「なんだ、それ?」
「ほら、あれですよ。ジョン・レノンが住んでたマンション。撃たれちゃったとこですよ」
「な、そ、それは行かなきゃいかんぞ。オラァ、いまだに12月8日は1日中ジョン・レノンの曲聴いてんだから」
「捜してみましょ。確か端っこの方ですよ」
「まだオノ・ヨーコ住んでんのかな」
「さあ、どうでしょ」

「あそこなんすかね。レストランですか」
「そんな感じだね。もう明かり灯ってんだ。おっしゃれだねえ、クリスマスしてんじゃん」
「こりゃ、クリスマス関係ないでしょ」
「そうだな。一年中こんな感じだろな」
「なんかいかにもデートスポットって感じですねえ」
「ふん。セントラル・パークだと思うと許せるから不思議だ」
「ちょっとお茶しません?」
「ダコタ見つけてからにしよ」
「どうでもいいんだけどさ。ダコタって土地の名前?」
「いや、たぶんマンションの名前だと思うんですけどね」
「変な名前だよなあ」
「ね、どういう意味なんすかね」

「さあ、どうなんダコタ」
「くだらねえ」

 ・・・

「けっこう歩いてるよなあ。方向あってる?」
「大丈夫でしょ。あのビルが後ろにありますから」
「うん、あれは間違えようないよな。それにしても何か昨日から歩いてばっか」
「いやあ、健康にいいっすね」
「ホントだよな。でも、ニューヨークってさ、思ったよりも小ぢんまりしてんのね」
「そうですね。そんなに広くはないでしょ」
「東京は広すぎるんだよな。それであんなにごちゃごちゃしてんだ」
「ま、東京の端から端まで歩こうって気にはなんないっすね」
「そのくせこんなにでかい公園はないんだから」
「あんまり利口な作り方してないすからね」

「あ、ちゃっと待って・・・。あー、この看板 " STRAWBERRY FIELD " って書いてある! これもしかして『ストロベリー・フィールド・フォーエバー』のことか?」
「ああ、そうですね。たぶん、ここのことじゃないっすか?」

「さ、坂井、写真、写真」
「小森さん、なんだか、すっかりミーハーになってません?」

「なんでもいい。頼むから写真取って。ああ、そうか、ここなのかあ・・・」
「な、泣くことないでしょうに」
「うう、だってあの曲好きなんだもん・・・」

「こりゃ、ダコタ見せたらどうなるんだ?」
「さあ・・・」

「で、そりゃどこなんだ?」
「ありゃ、立ち直りも早いっすね」
「いいんだよ、おまえ。時間ないんだから。いつまでも過去に拘ってちゃいかん」

 ・・・

「あ、たぶんあのビルですよ。ほら、あの橋の向こうの。写真で見たことありますよ」
「あれかあ・・・。マンションっていうより、洋館だな」
「なんか出てきそうすね・・・」
「行ってみますか?」
「中入れるかな」
「どうでしょ。あっち入り口ですよね・・・。あら、門番立ってるわ」
「はぁ、二人もいんのか。鉄柵になってんだね。こりゃ、無理だろな。一応聞いてみる? あ、こっち見てんね。・・・あー、メイアイ・・・ハハ、だめですよね。まいったな。メイアイだけで首振られちゃった」

「しょうがないしょ。写真取っていいすかね」
「うん・・・、あー、フォト、オッケィ? あ、いい。え、なんだ? 取ってくれんの。おい、写真取ってくれるって」
「あら、いいヒトじゃないですか」
「さあ、けっこう暇なんじゃねえか、こいつら」
「ニコニコしながら、よくそんなこと言いますねえ」
「大丈夫、どうせ、わかりっこないんだから。向こうだって早口の英語でなに言ってんだか。あ、ピース。ハハ、サンキューベリマッチ、ホント、この暇人が・・・」
「ひでえなあ」



「さ、行きますか」
「お茶しましょ。もう疲れたっすよ・・・あれ、どうかしました?」
「うん・・・、あれ、ごみ捨て場かな」
「ああ、裏の。そうですね。どうして?」
「うん。いや、こんなに立派なマンションでも、ごみ捨て場はあるんだなって思って・・・」
「そりゃ、そうでしょ」
「いや、ごみ捨て場はどこ行っても寂しい場所なんだなあと思って・・・ジョン・レノンもここにごみ捨てたかもしれない」
「なんか、そう言われると特別な意味があるような・・・」
「ねえだろ、そんなもん」
「あらっ」
「ごみ捨て場は、どうやってもごみ捨て場だ。よし、お茶しようぜ。あ、ちょうどいいや、あの店にしよう・・・」

 ・・・

「スリーメン、オゥケィ?」

" Oh, sure . "

 なかなか可愛いな、このウェイトレス。あ、そうだ・・・、

「あー、ウェイト(ちょっと待ってね、えーと、実は、実は)インファクツ、(えーと、煙草、煙草・・・うーん・・・あ、そんな瞳で見つめられても・・・あ)ウィ、ワナスモーク!」

" OH! Ok, I see . "

「お、サンキュ。おーい、いいってよ。あ、こっち?」
「はあ、小森さん、すごいっスね」
「な、いったろ?」
「なにが?」
「いや、英語」
「ああ、勢い、勢い、適当、適当、ハハ」
「そんでも通じてるじゃないっスか」
「言ったもん勝ち」
「なに言ってたんスか、いま?」
「ああ、煙草吸いたいんですけどって。ほら、こっち、結構煙草はうるさいみたいだから・・・どうしようかな、あ、オレ、ホットチョコレート」
「はあ? 変わったもん頼みますねえ」
「たまに、いきなり甘いもんほしくなることあんのよね」
「そんじゃ、僕も」
「あ、オレも」
「な、なんなんだ、おまえら・・・、あ、スリー、ホッチョコレッ、プリーズ・・・、はっずかしいんじゃないの、男三人でココアみっつっていうのは」
「小森さんが言い出したんでしょうが」
「いや、オレは好きなんだよ」
「いや、僕も好きなんですよ、実は」
「いや、オレも・・・」
「なんだかなあ」
「でも、あのウェイトレス可愛いっすね」
「あ、おまえもそう思った? なあ、可愛いよねえ。さっきオレに笑ってくれたんだぜ、ニコッって」
「そりゃ、お客さんですから」
「いや、あれは商売こえてたね」
「また無茶いって・・・あ、来ましたよ、あん!?」
「で、でかい」
「これ、・・・金魚鉢か?」

 ・・・

「なんか、うちらさっきから見られてません?」
「見る気持ちもわかる」
「そうっスねえ・・・」
「いい歳した東洋人の男が三人、金魚鉢みてえなでっかいグラスでホットチョコレート飲んで、煙草すぱすぱ吸ってりゃ、そりゃオレでもとりあえず見る」
「きついなあ。ほら、いい歳したって言ったって、たぶん十代にしか見えませんよ、オレたちなんて」
「ええい、そういう問題じゃないわ。ああ、コーヒーにしときゃよかったなあ、オレ・・・」
「甘いっすねえ、これ」
「ええい、そういう問題でもないわ」
「まあまあ、旅の恥は書き捨てって言いますから」
「ああ・・・、あのお姉ちゃん、どう思ってんだろ」
「いやあ、楽しんでんじゃないんすか。珍しいなって」
「楽しませてどうすんだ、楽しませて」
「どうせ、ほら二度と会わないんだから」
「二度と会わないからこそ、こんな姿では・・・、ああ、彼女の中でオレは一生金魚鉢を抱えて生きていくのかあ」
「明日にゃ忘れてますよ、そんなの」
「なんか、おまえ全然夢ないね。生きてて楽しい?」
「小森さん、楽しいっスか?」
「うんにゃ、あんまり・・・。ええい、大きなお世話だ」
「とっとと飲んで行きましょ。なかなか飲み終わんないけど」
「ありゃ、もう6時前だ。ライブ大丈夫か?」
「ああ、あれ9時からなんすよ」
「へ? そんなに遅いの? 日本じゃ終わる時間じゃん」
「ね。その辺が大人の街ですよね。なんせ地下鉄二十四時間走ってるとこですから。まあ、夜の地下鉄は乗んない方がいいらしいですけど」
「それにしても、ゆっくり飯食った後でライブ見れるなんて最高じゃん」
「早めに行ってライブハウスの近くで飯にしませんか?」
「うん、いいよ。そんでそのライブハウスどこにあんの?」
「グリニッチ・ビレッヂの方なんですけど、タクシーで行った方がいいでしょ。四人だし」
「何てライブハウス?」
「『ファット・チューズディ』っていうんですけど」
「ファット・チューズディ? チューズディって火曜日か?」
「みたいですよ」
「太った火曜日? ・・・うーん、肥満体の美容師が建てたんだろうか」
「どういう発想ですかそれは・・・」

 ・・・

 へえ。このライブハウス有名なんだな。タクシーの運ちゃんに言ったら、すぐわかっちゃうんだもん。東京で名前言っただけで場所がわかるライブハウスなんて何軒あるだろ。それともニューヨークのタクシー運転手は音楽に精通してるんだろうか? いや、そういうとこを指定する客が多いのかな。そうだな、地下鉄乗るよりタクシーの方が安全なんだもん。たいした距離でもないから、高くもないし。初めは運ちゃん恐かったけど、乗り慣れてみたらそうでもなくなるし。チップっていうのが、ちょいとやらしいけど。でも、あれは日本のタクシー運転手だって、きっちり払うのは、なんだこのケチって思ってんだろうし。だいたいドル札とかっていまいち金の実感がないから、そんなに惜しくもないもんな。これがいちいち日本円に換算してたらえらくせこくなっちゃうんだろうけど・・・。

 あ、着いた? $4.50か。そんじゃ6ドルでいいか。はいよ。割り勘しやすくていいや。

「なんか静かそうなとこだね」
「ここ、グリニッチ・ビレッヂでも端の方ですからねえ」
「時にそのグリニッチなんとかって何なの?」
「あら、知りません? 若い芸術家なんかが集まってる場所なんですけど。だいたい画廊とか、ライブハウスとかここに集中してるんすよ」
「ふーん。渋谷とか原宿みたいなもん?」
「まあ、そこに下北沢が混じったようなもんすかね」
「あ、あれですね、『ファット・チューズディ』」
「なんか、ライブハウスにゃ見えないな」
「ああ、あれ、ライブハウスが地下にあって、上はレストランになってるらしいんですけど」
「へえ。そんじゃ、面倒臭いから飯はあそこでいいじゃん」
「そうですね。そうしましょうか」

 あんまり広くもない店だなあ。縦長で、奥もそんなにスペースなさそうだけど。客もほとんどいないじゃない。流行ってないのかな、ここ。ライブハウスに来る客が結構いるかと思ったんだけど。でもレスポール・トリオってもなあ。大昔のギター作ったおっさんが出ても、そんなに人気ないか。

 え? あ、ライブハウスは下だよって、わかってんのね、このお姉さん。まあ、ヒトのこと煙たそうに。

「あー、ウィワナ、イート(こんなん通じんのか?)」
" Han? Ok, here "

 ああ、なんとか通じたみたいね。

「メイアイスモーク?」
" Oh, sure . "

 あら、ここはあんまり喫煙うるさくないんだろうか。あんま愛想よくないけど。

「なんにしましょっか?」
「はれ、あんまりたいしたものなさそうだね」
「そうっすねえ・・・よくわかんないっスけど」
「これ、ハンバーガーだろ? こんなもんでいいかな、簡単そうだし」
「オレもそれにしとこかな」
「そだねえ。ハンバーガーなら外れないか」
「でも、それだけで持つかなあ・・・」

 なんて心配してたのに・・・注文持ってこられた途端、全員であ然としてしまったじゃねえか。

" What's happen ?"
「あ? オ、ノゥノウ、ツゥビック、ウィア、サプライズ」

 あら、ウェイトレスさん、やっと笑ってくれたのね。

 しかしまた、とんでもなくでかいハンバーガー出てきたもんだあ。こちとらマクドナルド程度のものを予想してたのに。ビックマックよりでけえぞ、これ。

「ホント、アメリカって豪快ですねえ・・・」
「なんか、今日は特に・・・」
「見せてもらってますねえ、その辺・・・」
「どうやって食えばいいんだろ、これ? こんなん食いつけねえよ」
「やっぱ、フォークとナイフで切るしかないんじゃない」
「かあ、それハンバーガーの食い方か?」
「こんなん、一口で食う奴いるのかなあ」
「やっぱアメリカ人でかいわけだ。こんなもの毎日食ってりゃ」
「そりゃ、戦争に負けるわ」
「しかし、また、このポテトが山盛りだよなあ」
「でもさあ、あんまりうまくなくない?」
「うん。えらい大ざっぱな味・・・」
「なんなんだろうねえ、微妙な味付けとか気にしないんじゃないの」
「いやオレ、前にイギリス行った時も感じたんですけどね。欧米人って、その辺、雑ですよ」
「どうなんかな。味覚が違うのかなあ」
「うーん、質より量ってやつじゃない?」
「これじゃ、日本食、流行るわけだ」
「でもこれ、確実に腹は一杯になるよ」
「それどころじゃないですよ」

 確かにそれどころではない。半分食ったら、もう充分だ。ああ、それでも残せないんだよな、オレ。とりあえず目の前にあるものは全部食わないと安心できないんだから。しつけの問題だろうか。茶碗の米粒残したら、お百姓さんに叱られるなんて言われてたもの。おかげでガキん時は、思いっきり肥満児だったじゃない。だいたい、お百姓さんが怒るわけないんだよ、あっちだって商売なんだから。ああ、それでも残せない自分が悲しい・・・。

「うわ、すげえ・・・ぜーんぶ、食べちゃったんスか?」
「うん・・・」
「いや、そんな悲しい顔しなくても・・・」
「だめだ、オレ。ニューヨーク住んでたら、絶対、太る。ああ、二度と太りたくないよう」
「どうしたの、小森さん?」
「さあ・・・」
「とりあえず、そろそろ行きましょか?」
「おう、そだな。チェック・プリーズ」
「立ち直りも早いっすね」
" You , Finish ? "
「イェース、イェース(お腹ポンポン)」

 あ、いいっすねえ、その笑顔。

" --- GIG ? "

 へ? ライブ見に行くかって聞いたのかな。うんうん。

" Who --- Today ? "
「レスポール」
" ? RESUPO- ??? Oh, Lesporle ! "
「イェース、イェース。ドゥユノォ?」
" No. I don,t know. "

 なんじゃそら。

「あー、ライブスポッツ、ダウンヒア、OK?」
" Yeah,---down there , Have a goodtime. "
「サンキュ」

 なんだ、目の前にあった階段からそのまま地下に続いてんのか。そうだよな、同じ店なんだもんな。でも、あのウェイトレスさん、なかなかよくしゃべるヒトだったのね。わかんないもんだわ。" Have a goodtime " なんて、さらっと言っちゃうところがいいよな。

 ありゃ、思ったより広いじゃん、ここ。上の店とは作りが違うんだ。しかしなんか、安酒場のショースペースって感じだなあ。丸テーブルで囲んであって。あれステージだよな。一応ドラムが置いてあるし。全然仕切られてないのな。

「なんか、えらいアットホームな感じしない?」
「そうっすねえ」

「これ、どこ座ってもいいのかな」
「いいんじゃないっスか」
「お客さん、そんなにいないねえ」
「そうっスね。まだ時間あるからかな。ま、レスポール・トリオですからねえ」
「それじゃ、ここでいいかな。ステージのまん前じゃん。チケットとか、どうなってんだ?」
「さあ。けっこう適当だったりして」
「あ、注文取りに来た。・・・なんかお酒飲めるみたいだな」
「いや、飲まなきゃいけないんですかね」
「ま、どうせ飲むでしょ。あ、それじゃオレ、バーボン・ソーダ」
「あ、オレ・・・」

「・・・なんか、すっごい無愛想でしたねえ、今の」
「ああ、ショートカットでなかなか美人だったんだけどねえ」
「いやあ、あれが普通の反応かもしんない。どこでもニコニコしてくれるもんじゃないでしょ」
「そんなもんかもしれない」
「そういえば、あんまり日本人いないねえ」
「レスポール・トリオ見に来る日本人も珍しいんじゃないの」
「うん、あんまり素人受けはしないだろうね」
「あれ、それにしちゃ結構埋まってきたな」
「ほんとだ。馬鹿にしたもんでもないのかな」
「そうですよ。だいたいレスポール作った人なんて、ほとんど歴史上の人物ですよ」
「はあ、そんなもんだろか」
「あ、ほら、あのヒト着てるTシャツ、あれレスポールの写真入ってる」
「ホントだ。ありゃ、レスポール持ったじいさんが笑ってるよ。へえ、Tシャツなんかあるんだ。キャラクターグッズだね」
「ええ、隠れファンは多いと見ましたね」
「いや、なにも隠れることはないと思うんだけど・・・あ、出てきた」

「えーと、ウッドベースが一人に、ギターが二人か。あ、ホントだ。あのじいさんレスポールもってるわ。あのヒトか?」
「うわあ、けっこういってるよ、ありゃ。いくつなんだ、いったい」
「七十は越えてるな」
「いや、八十近くと見たね」
「あ、座ったわ。そら、レスポールじゃ重いだろ」
「なんか演奏しながら死んじまわねえかな」
「おいおい、自分のTシャツ着てるよ。あのじいさん」
「ホントだ。おんなじ顔してますねえ」
「なんか、えらいまぬけだ」
「レスポール持ったレスポールが写ったTシャツ着たレスポールがレスポール持って座ってるわけですね」
「なんか、わけわからん・・・」

 ありゃ、いきなり始まっちゃった。何も予告しないのね。・・・なんだこれ? カントリーっぽいな。お、おい、うまいよ、これ。弾いてるよ、弾いてるよ。レスポールがレスポール弾いてるよ。ああ、ややこしい。でも、やっぱ自分でギター作るだけあんな。あのじいさん、まともにレスポール弾きまくってんじゃん。

「かっこいいなあ」
「ね。ただもんじゃないっしょ」
「ホントだ、ただのじじいじゃねえ」

 また、あのリズム・ギターがいいなあ。何者だよ、あのヒト。けっこういい歳だろ。五十は越えてっかな。ひとりだけチョッキ着ちゃって、ホームドラマに出てくる厳格な医者のお父さんみたいな顔してるくせに。なんつう正確なリズム出すんだ。そういえば、あのギター、レスポールじゃないな。いいのかな、レスポールの前で別のギター弾いても。ま、サイドだもんね。あ、あのヒトがMCやるんか。おお、じいさんぜいぜいしてるよ。いいよ、休め、休め。死ぬんじゃねえぞ。え、スターダスト? へえ、そんなのも演るの。あら、サイドのお父さんが唄うのか。お、いいね、いいねえ。

 ・・・

 はあ、もう終わりかあ。なんかあっという間に終わっちゃったな。

「どうでした?」
「おお、最高じゃん。よかったよ」
「でしょ。いやあ、喜んでもらえっとよかったっすよ」
「これで、ライブ代いくらなんだろ」
「あ、勘定きましたよ。えっと、全部で・・・、あら、全部で$82.5だって。ライブ代$20くらいっすね」
「はあ、やっすいんじゃねえかあ」
「チップどうしましょうか?」
「うん。面倒臭いから一人$22ずつで$88くらいでいいかな。ちょいと端数だけど」
「あ、じゃこれ・・・」
「はい、オレの・・・」
「はいよ。・・・そんじゃ、これ。OK?」

 あ、あら。なんか、ウェイトレスのお姉さんが固まってるような。うわっ、睨んでる。わっ、腕組んだ。胸張った。な、なんなの・・・?

「ワ、ワッツ?」
" Usuary , You must pay for chip --- 10 or 15 percent of all , OK ! "
「は、はあ。そうっすか・・・あ、アイシーアイシー・・・サンキュフォーアドバイス(?)」

「どうしたんすか?」
「なんかなぁ。つうじょーはぁ、ちっぷはぁ、10から15パーセント払うもんだって」
「は? もしかしてチップが少ないって文句言われたわけっすか?」
「まぁ、そういうことなんでしょねえ・・・はあ、こんなとこでチップの講義受けるとは思わんかった」

 帰りのタクシーでホテルまっすぐか。なんか冒険心にかけるけど、まあ今日はよしとするか。なんせ結構密度は濃かったような気がするもんなあ。さすがに皆ぐったり来てるのかタクシーの中の会話もないし。

「はあ、帰り着いたあ」
「ちょっと、そこ座ろ・・・ああ、ここいいわ」
「なんか疲れましたねえ」
「だねえ・・・」

 まだクリスマス・ツリーが立ってら。ロックフェラーに比べたら、みすぼらしくなっちまうけど、いいもんだなあ・・・。なんだ、プレゼントの箱が根元に置きっ放しじゃねえか。もう、クリスマスも終わりだぞ。

 ・・・そっかあ、終わりかあ。今年のクリスマスはこうして終わるんだ。わっかんないもんだよなあ。ニューヨークにいるんだもんな、オレ。考えてもみなかった。去年の今頃はどう思ってたんだろ。来年のクリスマスこそ・・・か。ハハ、なにがどうなるもんだか。ニューヨークだぞ、まいったね。

" Are you japanese ? "

 ん? 黒人。まだ若そう。ホテルの人か。暇なんだろうな。

「イヤ」
" Oh, really? I think Japan is good country. "
「オゥ、サンキュ。ドゥユノジャパン?」
" No, But I have japanese VCR, that's is good . "
「ヴィシィア? なんだろ、ヴィシィアって」
「さぁ・・・」
" You don't know VCR ? "
「ノォ、ワッツ、ザッツミーン?」
" V-C-R , VIDEOCASSETTE RECODER ・・・ "
「オゥ、ビデオ。VTR?」
" VTR ? "
「イヤ。あージャパニーズセッドザッツ、オンリィビデオ、オア、ビデオテープレコーダ」
" VIDEO TAPE ? "
「ドンチューセイ、ビデオテープ?」
" No, usually call VIDEOCASSETTE. "

 へえ。まあ、カセットていえばカセットか。でも、カセットっていったらミュージック・テープだと思っちゃうよな。あ、そうだ。あれ聞いてみよ。あのツリーの下の箱のこと。

「エニウェイ、フーズプレゼンツ、ザッツ?」
" Han? Oh, nobody. That's only decoration. "
「オンリ、デコレーション?」
" Yeah, That,s empty."
「エンプティ?」

 なんだ空っぽなんか。そりゃそうだわな。中身入ってたら盗まれちゃうよな。なんでオレ、誰かのプレゼントだなんて思ったんだろ。

" HA HA , You,re disapoint ? "

 うん。ちょっとがっかり・・・。

「なかなか会話になってたじゃないっすか」
「あ? ああ、こっち日本人だから簡単なことしか言わなかったんだろ」
「あいや、もう外人担当任せましたよ」
「英語、なんかやってました?」
「昔、英検受けて落っこちた」
「そりゃ、りっぱな経歴ですね」
「ねえ、酔いも醒めたことだし、ちょいとバーでも寄ってみません? ほら、あそこそうでしょ」
「あ、いいね。いってみよか」
「なんだ。お客さん全然いないな」
「貸し切りじゃん」
「ま、こんなもんでしょ」

 ・・・

「そんじゃま、とりあえず」
「あい、お疲れさん」
「なんだかな。チアーズにしましょ、チアーズに」
「あ、そうね。ニューヨークだもんね」
「そんじゃ、チアーズ」
「いやあ、しかし、あのチップには参りましたねえ」
「ああ、あの、ユージュアリィ?」
「そうそう。ユージュアリィィィ、ですもんねえ」
「まあ、ああ言われちゃあねえ」
「しっかし、なんか頭こない? だってチップだろ」
「そうだよなあ。払う方の勝手って感じもするんだけど」
「さあ、どうだろね。ほら、こっちはそういう習慣ないからねえ」
「いや、しかしですね。なんかつけ上がってますよ。チップ当たり前なんて」
「ま、確かにああこられると、あんまりいい気分はしないけど」
「日本人だから、なめてんじゃないっすか」
「いや、そこまでは」
「ま、ここは親切に教えてもらったと思った方が」
「あんまり親切な態度じゃなかったけどね」
「そうですよ。足元見てんじゃないっすか?」
「でもなあ、うちら日本人だから、チップは払わんっていってもねえ」
「そういうの有りだといいんですけどね」
「だいたい、チップない国ってどこが有るんだろ」
「さあ、ヨーロッパなんかはだいたいありますよね」
「アジアはないのかな?」
「オーストラリアは?」
「さあ、あると思うけど」
「ソ連なんてありますかね?」
「お、そういわれると意外に少ないのかもしれない」
「そんじゃなにかな。日本に来た外人は、チップもとらないなんて、いい国だとか思うのかな」
「あいや、こいつらチップもとらないでバカなんじゃないのって思ってたりして」
「どうだろ。元々物価高いから、それで納得してんじゃねえか」
「あ、チップが料金に入ってんだなって?」
「どうなんだろ。物価高いのかなあ、ホントに」
「やっぱ高いんでしょ、日本は」
「わかんないよ。あれはドルがいくらかによるからさ。ほら、1ドルが200円くらいで考えれば、そんなに変わんないもん」
「そうですよね。昔なんて360円だったんですもんね」
「信じらんねえよな」
「そんでも、やっぱ、ビールは安いっすよ」
「ああ、ライブハウスも安い」
「あ、煙草は高いぜ」
「うん、物の価値観が多少違うところがあるかもしんない」
「どっちがいいんだろうか?」
「さあ、なんともいえんね」

 ・・・

「藤田さん、まだ連絡つかないっすよね」
「そだねえ。あさってくらいになんないと帰ってこないらしいし」
「バーニーもまだ連絡つかないし」
「バーニー?」
「あ、ほら、オレの友達の知り合いの女の子」
「へえ、バーニー、ていうの?」
「うさぎちゃんかあ、なんか温泉の中で看板もってるみたいな名前だね」
「あのねえ・・・」
「ま、とにかくそっちの方は中休みだね」
「そっすね。明日あたりはオフ日にします? 一通り今日行っちゃいましたもんね」
「ああ、そだね。いいんじゃない、フリーで」
「あ、夜のライブは一緒に行きましょうよ。予約しときますから」
「オッケ。じゃ、夜の7時にロビー集合だけ決めとこか」
「りょーかい! じゃ、そういうことで」
「さて、行きますか・・・」


To be continue →





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